ドウス昌代 『イサム・ノグチ』より

 “ブランクーシは、仕事中にイサムの心が瞬時でもさまようのを許さなかった。「窓の外に気をとられるな、やっていることに集中しなさい」とすぐ声が飛んだ。
 「最初だからこそできるものを大切にせよ。はじめから破棄する試作としてものをけっして作るな。いまより以上の良いものができるとけっして思うな。」
 とも、ブランクーシはくり返した。人生が一度のものであるように、いまという瞬間も一回きりのものだ。将来にそなえて何かをすべきではない。人というものはつねに変化の流れの中にある。二十二歳ののいま作るものは、いましか作れないものだ。それを理解せず、「もし君の心が仕事と一体になっていないなら、別のことをやりなさい。ただし、彫刻家にはなるな」とブランクーシは言った。
 「いまという瞬間こそを、最高のものとせよ」というこの教えを、イサムは晩年になってもブランクーシからもらった「最高の財産」とした。”(上巻261頁)


 “時を経て私が変われば、それだけ私は、私自身に近くなる。新しい時点の新しい自分に近づくことを意味する。変化は発明であり、新しい創造だ。”(下巻328頁)